昨年は各教科の難度がほどよく,かつ揃っているという印象を受けた。年度によって難度が大きく変動したり教科間で異なったりすると,この入試を目標に勉強する受験生を振り回すので,引き続き難度の安定した入試を用意してもらいたい。昨年の記事でそのような“願望”を書いたが,残念ながら今回はいろいろと失望させられる点が多かった。筆頭は理科の惨状(易化では済まない)と社会の易化であり,また“意表を突いた”かのような国語大問[二]の説明的文章。作問者のレベルもそれを監修すべき道教委の担当者のレベルも低下の一途であるように感じられる。頑張って本番に臨んだ受験生たちが不憫でならない。
■国語
大問[二]は昨年に続き説明的文章で,しかも昨年に続き美術に関するものであった。2022年度以降,文学的文章(小説など)と説明的文章(論説文など)が交互に出題されており(22年度文学的→23年度説明的→24年度文学的→25年度説明的),この流れからすると今回は文学的文章の可能性が高かったのだが,“意表を突いた”ということなのだろうか。つまり,説明的文章と文学的文章が交互に出される流れからして「来年の大問[二]は文学的文章だから,「公立高対策としては説明的文章はやらなくていい」などという感心しない事態を招いてしまっているので(道教委が,である。塾業界が,ではない),そこに“一石を投じた”つもりなのだろうか。
来年の受験生の身にもなってみれば,次こそは文学的文章であろうと思う反面,今回のような“意表を突く”真似でもされればまたしても説明的文章かも知れぬと案じ,“仕方なく”両方勉強する羽目になってしまう。こんな心配をするのは(勉強するのは良いのだが)不毛以外の何者でもなく,一部の塾屋が予想が当たったの外れたのと一喜一憂するのはもっと絶望的に不毛である。こんなことなら以前のように説明的文章と文学的文章の両方を大問として出題すればいいのである。
それを妨げているのは「実用文」の大問である。「実用文」的な大問が二つもあるものだから,これも昨年に続いて古典が小問集合の中の1問に格下げ・縮小されてしまっている。23年度・24年度と古典は設問数が過去の3問から4問に増えるとともに内容も難化する傾向にあったというのに,である。高校での古典は中学での中途半端な古典から格段にハイレベルになるうえ,道教委が意識しているに違いない大学入学共通テストでは(かつての共通一次試験の頃からずっと)古文も漢文もれっきとした独立の大問として出題されているのである。高校入試の古典を軽く易しくしている場合ではないと思うのだが。
毎年書いていることをまた書くと,実用文の大問を用意するのはいいとしても,それは小説や論説文や古典を切ったり易化させたりしてまですることなのか,おおいに疑問である。実用文は扱いを縮小し,小問集合と合体させて大問[一]とし,以下はかつてのように,[二]文学的文章,[三]説明的文章,[四]古典--のようにすべきではないか。このような形式のほうがバランスが取れているはずである。
[一]小問集合と古典。小問はおもに漢字の知識。古典は古文「大鏡」より「三船の才」。登場人物は藤原道長(入道殿)と藤原公任(大納言)の2名で,公任は漢詩・音楽・和歌の三種にすぐれた人物ながら道長のほうが格上である。(1)で「のたまふ」5箇所のうち藤原道長のものを2つ選ぶという問が全体を読みこなすヒントになっている。1行目「和歌の船に…」は大納言の台詞だし,4行目「御みづからも」はその前に「大納言が」を補えばわかりやすい。
[二]説明的文章。素材は小林道憲「芸術学事始め--宇宙を招くもの」(中公叢書,2015)。昨年の佐々木宰・福井凱将「原体験としての造形-イメージの形成と遊びとしての表現」に続いての芸術論であるが,昨年は入手困難な書物からの引用だったのに対し今回のは書店で買える。内容が抽象的であるうえ,「理解」と「解釈」の2語の遣い方が(遣い分けがあるのか,適当なのか)不明で読む者を悩ませる。設問は平易なものが多いが問六がやや難。どの選択肢ももっともらしく読めるので,本文を精密に参照しなくてはならない。形式段落に1から13まで番号をつけておくと,イは第9段落の内容と一致するので正解とできる。アは「…断層があるため,…必要があり」という論法がおかしい。ウは「体験自体が鑑賞者の自己理解につながる」という箇所が第8段落の内容に反する。エは「作者の体験を解釈する」ではなく「作品を解釈する」が正しい。
[三][四]実用文。両方に自由度の大きい記述問題があり,いわゆる“表現力”を見ようとしているのだろうが時間が短いためその場しのぎの,深い思考のできない,雑な解答になりがちである。その上,英語の最後の作文に似て採点基準が緩い。大事な高校受験の場でこんなことをさせるくらいなら,「実用文」は半分に減らして文学的文章と古典の大問を出しなさい。
■数学
難度は昨年と同等か。昨年は「確率と標本調査」の大問があったが,今回は統計的処理の問題は[1]の問5だけ。記述式の分量が多く,しかも定番での形式ではないので,日頃から途中経過をきちんと書く習慣がないと厳しかったであろう。
近年続いていた「コンピュータを使って」という設定の問題がなかった。コンピュータを使う必要性を感じないものが多かったので,もっと数学の思考そのものを大切にしようという作問になったのであろう。良いことである。
[1]小問集合。全設問とも平易。問5は実質「3+6+15」の計算になっていて小1レベルである。配点34点(全体の約3分の1)は過去3年と同じ。
[2]文字式を使った規則性の証明。標準的で,問1→問2→問3と発展していくところは数学的な興味に訴えるところがある。
[3]2乗比例関数。自転車の速さと制動距離の関係を扱う。自動車の制動距離が速さの2乗に比例することはよく知られているが,ここでは生徒が自転車で実験しながらという設定になっており,新傾向と言えそう。内容は平易。
[3]平面図形。中心角30°の扇形の中に正三角形を描くという設定での作図や計算。証明は「正三角形である」ことを示すもので,三角形の合同や平行四辺形ではなく,書きにくいと感じた生徒が多かったであろう。
[4]空間図形。円柱の相似と体積の計量。(2)は値段の比=体積の比とする「方針」で①新製品の直径を求めたあと②円柱Xと円柱Zの直径の比からXと「X+Z」の体積の比を求める--のだが,②を解いてから①を解くのが自然なように思われる。答えるのは「直径」で,学力がある子でも(計算は半径でするので)うっかり半径を書いてしまいそうである。出題じたいが「半径」で話を進めるべきではないかと思う。
■英語
[1]リスニング。配点35点は例年と変わらず。問4は教師の説明をメモする場面のもので,(2)は4語で書くよう指示があり「some donuts and drinks」が正解となっているが,放送原稿ではsome donuts と some drinks が対になっており,2つめの some を省く必要がある。
[2]穴埋め形式と自由作文の基礎的な問題。従来通り。(2)は北海道でどのように冬を楽しんでいるかを書くもので,身近な話題であり書きやすかったであろう。
[3]例年どおり,[A]は表を見て答えるもの。ある高校が行う「日本語フェスティバル」。特に難しそうな点はない。[B]は「キャッシュレス決済」に関するスピーチの原稿。ある店でクッキーをスマホ決済で買おうとしたら店が対応しておらず現金の持ち合わせもなくて買えなかったという。店としては決済会社に使用料を払う必要があるため採用していないとのことで,キャッシュレス決済の便利さ以外のことにも目が向いたとのこと。問3は「ある店がキャッシュレス決済を導入することについてどう思うか」という問への答えを書くものだが,それは店主になったつもりで考えるのか消費者としてなのか不明であり,書きにくい。消費者としては便利だから導入すべきだ,でも答になる(正答例はその方向)だろうが,そんな浅い思考の答で良いのか?[C]は会話文で,留学生の日本でのステイ先での生活と日米の学校生活の違いを扱った,よくある内容。
[4]自由作文。英文の1文目は仮定法過去であることに注意しなくてはならず,大問[4]としては新傾向。(1)は I had または there were となる。(2)は行ってみたい時代,(3)はそこでしてみたいことを書くのだが,(2)を自分の思う通り書けないと(正答例はあっさり future で済ませているが)(3)も難しいであろう。また(2)の空欄の前に the があり,「江戸時代」 Edo period/Edo era のように the が不要なものは書いてはいけないことになってしまっている。細かい配慮が欠けているのである。
毎年書いていることをまた書くと,自由作文の採点基準が大甘である。(3)は「英語使用の正確さに不十分な点はあるが,表現内容が適切である場合は4点(中間点)とする」というもの。あちこちミスしまくっても6点中4点もくれることになっている。減点法を採るとすぐ0点になってしまうから(せっかく書いたのに?)ということであろうが,内容は大したことなくてもいいからミスのない文を求めるのが入試のありようとしては正しいはずであるし,こんな大甘な採点をしているのは5教科の中で英語のここだけなのである(前述のとおり国語の実用文にもこれに同調する傾向がある)。実際は各高校で個々に採点基準が存在するのに違いないし,そう願いたいものである。
■理科
前年度も難しくはなかったが,今回はさらに易化。過去問(14年度や17年度)の焼き直し(リバイバル)が目立つ。設計図のない,深みもない出題が並んでいるうえ,大問[2]に解答不能の出題ミスがある。作問者の力量不足が明らかである。責任者がいるのなら(いるだろう)もっとしっかりチェックをせよと言っておく。受験生の身になって解いてみればいいだけのことである。
[1]小問集合。全問素直で易しい。問1の(2)「空気の成分」は14年度入試の問1(2)と同一題。問4「細胞分裂」も14年度問4と同一題。また問1の地学2問は,大問[4]が天体であるにも拘わらずこちらも天体。固体地球は問5に出ているので問1は気象から出すべきであっただろう。
[2]物理。光の反射と屈折。3つのネタを並べただけで深みに欠けるうえ,実験2・問2は14年度の大問[5]実験2のリバイバルで,しかもぐっと易しい。また問3の(2)「点が浮き上がって見える位置」は中学理科では答えられない。ズバリ出題ミスである。出題者は「点の真上に浮き上がって見える」つもりで出題し正解もそのように6cmとしているが,真上に浮き上がって見えるのは真上から見る場合のこと(高校物理)で,本問はモロに斜めから見ているわけだから6cmよりは高く,しかも目に近い位置となる。計算はできるが大変すぎて,中学理科はおろか高校物理の範疇も超えている。「こんなのわかるわけないだろ」というのが正しい反応である。止むを得ず「真上に浮き上がって見える」という仮定で6cmと書いて“正解”した生徒もいただろうが,得点と引き替えに自分の科学的良心に背を向けさせてしまったことになる。またここで考えあぐねて時間を費やした子に心から同情する。採点した高校教師たちはどうしただろうか。
[3]生物。消化系。基本的な唾液実験と消化に関する知識を問うもの。基本的でかつ軽く,中2の標準問題を解いているよう。
[4]地学。太陽表面の観察と太陽・地球・月の関係。前者は黒点の位置の作図があったりして目新しさが感じられるが,後者の実験・問2は17年度の大問[3]の実験を数値を変えただけのもので,「Kさん」を含めたイラストもそのままなら設問もほぼ同じ。過去問をリバイバルするなら10年以上開けなくてはダメだろう。また(17年度のときも書いたが)月と太陽の直径の比とか地球から月や太陽までの距離は憶えてしまっている子が多く,記憶のまま書けば正解になってしまう。もっと考えて作問しろと言いたい。
[5]化学。酸化銅の炭素による還元。典型的な出題。苦手な子が多いところだがやはり中2の標準問題レベル。化学反応式もなく,(中2内容ではないが,中学化学ではとりわけ重要な)「イオン」の扱いも結局なし。問2は試験管内の気体の密度を比較するものだが実験の本筋から外れている。理科のラストの大問なのだからもう少し骨のある出題が欲しかった。
■社会
昨年からの易化傾向が続いている。資料を参照して記述する問題も本質的に「いつもの問題」になってしまっていて,実力のある生徒には手応えのないセットであっただろう。歴史は人名を書かせる問が目立ち,「平塚らいてう」「吉田茂」「岩倉具視」の3名。特に吉田茂は(実力のある宰相を作問者が渇望しているのか)北海道でも頻出で,数えていないが何度目かのはずである。
[1]小問集合。地理・歴史・公民の小問が各5題…が普通だが,公民の1題はいつもの北方領土に関するもので実質日本地理。問2(2)は「リアス海岸」を説明するもので,海岸線が「入り組んでいる」という表現に馴染みがあれば平易。問4(5)は「間接金融」を説明するもので,「直接金融」の説明が前にあるので対句的に書けばよいが「金融機関」の語が出てくるかどうか。
[2]歴史。古代から現代までの総合問題。昨年度は「各時代の船」が資料として提示されていて統一感があったが今回は特にテーマらしきものは感じられない。問6(1)は広島と長崎の位置を選ばせるもので小6の小テストレベル。記述式の2題(問1と問5)はいずれも資料つきだが内容はいつもの問題のいつもの答。もう少し思考力を問うても良いのではないか。歴史が好きで得意な生徒はがっかりしているだろう。
[3][A]世界地理,[B]日本地理。[A]問2はオーストラリアからの石炭の輸入額を計算して選択するもので,精密にやれば「11兆6224億7700万円×0.453」だが(普通こんな計算をする必要はないものの)選択肢が5兆・5000億・500億と単純なので乱暴に丸めて「10兆×0.5」で正解できてしまう。簡単過ぎるだろう。問3はインドのベンガルールに米国企業のコールセンターがある理由で,新しめの話題ではあるものの既に定番化した問題。[B]問1は京葉工業地域の製品割合のグラフを選択し理由を立地に絡めて記述するもので,定番。問2は名古屋港と関西国際空港の輸出品のグラフを示し名古屋港のものを選ばせるのだが実質「2択」になっており簡単過ぎるのである。
[4]公民。日本文化・人権・政治・経済・労働・国際の各分野。問4は高校の学校祭の模擬店の話に需要曲線・供給曲線を持ち出して生徒に議論させているが「鶏を割くに牛刀」のような印象で滑稽にすら思える。高校生たちにはもっと深い議論をさせたらどうか。問6は日本ODAに関するものだがグラフを選ぶだけで,社会のラストの問にしてはいかにも軽い。日本のODAの課題を記述させるというような工夫の余地があっただろう。

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