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塾長日記

2024年度北海道公立高校入試について

 一昨年・昨年と理科・社会の難度が変動し,理科が難化すると社会が易化したり,またはその逆であったりと,2教科間で難度の調整でもしているのではないかとの疑念を覚えたものだったが,今年は理科も社会もほどよい難度で,国数英を含めて全体に難度が揃っている印象を受けた。来年以降もこの入試が受験生の良い目標となっていくように願いたい。

■国語
 大問[二]は文学的文章(小説など)。昨年は説明的文章(論説文など),一昨年は文学的文章であったから,両者を交互に出すという傾向がはっきりした。昨年も書いたが,2年前までのように説明的文章と文学的文章の両方が大問として出ているほうがバランスは良いのに違いない。両者が交互に出される流れであれば,来年の大問[二]は説明的文章だから公立高対策としては「文学的文章はやらなくていい」などという感心しない事態を招く。
 さらに昨年書いたことを再掲すると,「このアンバランスは実用文の問題が大問で存在するために起こっている。実用文重視の傾向は大学入試“改革”の影響を受けていると思われ,全国的なものであろうし,意図はわからなくもない。ただ,それは小説や論説文を切ってまでやることなのか,また日本語の運用能力を測るということなら小説や論説文に絡めても可能ではないのだろうか,との疑問も湧く。以前のように実用文は小問集合と合体させて大問[一]とし,以下,[二]文学的文章,[三]論理的文章,[四]古典--のようにすべきではないか」
 大学入試“改革”の先陣を切っているのであろう大学入学共通テストでは,昨年も今年も実用文の出題がなかった。実用文がなくとも国語力を測れると判断されてのことではないだろうか。
[一]小問集合。全体に平易。問四の会話は不要な台詞が多く無駄な時間を喰う。
[二]文学的文章。素材は青山文平『本売る日々』(文藝春秋,2023)。文政5(1822)年の本屋の主の一人称視点による物語。江戸時代の話ではあるが会話も地の文も現代と変わりなく読み易い。それでいて内容が軽いということもなく,良い素材だと思う。問二は当時の時刻の表現に関する理解を問うものだが常識的に解ける。問七は昨年に続く新傾向で自由作文的。よく考えれば書くべきことは割合明らかで書き易い。
[三]古典。『蒙求(もうぎゅう)』より,漢文の書き下し文。蒙求は「伝統的な中国の初学者向け教科書である。古人の逸話を集めて韻文で並べた故事集。日本でも平安時代以来長きにわたり読まれた」(Wikipediaによる)。故事成語「断琴の交わり」の由来となる物語で,文章は短く注もしっかり付いているので読解に苦労することはなさそう。
[四]実用文。美術部員の生徒が学校祭で企画展をするために作成したチラシとウェブページに関するもの。札幌の大通公園にあるイサム・ノグチ作の「滑り台」(でもある彫刻)が出ていたり,札幌の生徒には馴染みやすい内容。問三は資料から抜粋してまとめる作業で,説明的文章の問題でよくやるもの。問四は,自分の感想を資料(福岡伸一氏の文章)の内容(の一部)に合わせて書くという,意図のわからない出題。自身の中から湧き出る感想ではなく他者の感想の一部をいただいて改変するようなことをさせられる印象を受ける。

■数学
 オーソドックスな問題のセットで,一昨年・昨年と続いた「予想と説明」はなし。試してみてダメだとわかったらやめる,という態度は潔くて良いが,2年もやったのは失敗であった。
[1]小問集合。配点が一昨年から27点→33点→35点(今年)と増加中。
[2]式と証明。よく見かけるタイプの素材で,しっかり勉強してきた生徒には苦労がなかったであろう。
[3]関数。問1は1次関数の式の導出。この暗算で出てしまいそうなやつをわざわざ記述式で書かせることを北海道ではよくやる。この導出が難しい子はやはり書けないし,暗算で出てしまう子には煩わしいという,悲しい問題。解ける子にはこんなところで時間をかけさせるのはやめて,最終の空間図形の記述をじっくり書けるようにしてやるべきではないか。また問2の「直角二等辺三角形」は2019年に類題が出ている。形式とxの2乗の係数が変わっただけでほぼ同じ問題といえそうなものである。5年置いているが過去問をやっている生徒にはボーナスのような出題。
[4]平面図形。問2は平行四辺形の成立の証明と相似比を使った面積の計算で,ほどよく歯応えがある。ところで問1は設問文に「成り立たない」ものを選べとあるのでアとウを選ぶのだが,思考するうちイの長方形が適当だとわかり,ついイと書いてしまいそうである。長方形だとわかることのほうがおかしな設定の設問に合わせることよりも数学的にはよほど重要なはずだが,この設問の形式は何を意図しているのであろうか。設問をよく読まない子へのペナルティだとしたら,くだらない。ここで惜しくも満点を逃した生徒には同情する
[5]問1は確率と平面図形の融合。ルールはやや煩雑だが全部で8通りを丁寧にチェックしていけばわりあい短時間で結論が出る。見かけがゴツいのに臆して敬遠しないようにしたい。問2は空間図形で三平方の定理を使う。時間との闘いになるので,要領良く記述するための練習を積んでおきたい。

■英語
 一昨年,昨年と同じく読解問題は大問[3]の[B]と[C]のみであり,かつての裁量問題の[A]に比べると負担は小さい。リスニングや自由作文のウェイトが大きく,歯応えのある英文にじっくり取り組むという要素に不足があるであろう。一見“実用”重視に見えるが,中学英語レベルで“実用”に長けていることは成長後の英語運用能力におそらく大した意味を持たない。中~高難度の英文を前にじっくり思考する大問が欲しい。また3年後の大学入試では,たとえば共通テストで(その是非は置くとして)膨大な量を猛スピードで読まねばならない(リスニングも膨大にあるのだが)ことを考えると,高校入試でのこの軽さが心配になる。リスニングや自由作文の量を減らして1ページを超える長文を課すという方向にできないか。(以上は昨年書いたことを改変して載せました)
[1]リスニング。配点35点は変わらず。問4のNo. 3はいろいろ別解がありそう。
[2]穴埋め形式と自由作文の基礎的な問題。従来通り。
[3]一昨年・昨年と同じく,[A]は表を見て答えるもの。下の注に「保護者と来賓は11時から15時まで」とあるので,問1でウを選ばないように気をつけたい。問3の作文は書くべきことが決まっているので容易。[B]は半ページほどのスピーチ原稿。「ミスを恐れずに話せ」というお馴染みのネタで設問も平易。[C]はnudgeという見慣れない語句に関するもの。環境省のサイトによれば「ひじ等でそっと押して注意を引いたり前に進めたりすること」「特定の決断や行動をするようにそっと説得・奨励すること」(ロングマン英英辞典の定義をまとめたもの)で,どうもSDGsがらみの扱いらしい。本文では交通機関の階段に「ここまで昇ると●●kcal」などと書いてあって歩くよう勧められるというアレである。生徒のプレゼンもなかなか面白い。
[4]自由作文。デジタル版の卒業アルバムというものについての紹介で,生徒が作ってみたという話ではない。(1),(2)は書くべきフレーズや単語が決まっている。(3)で「デジタル卒業アルバムでできること」を2つ書く。First, …/Second, …”という形式で書けばなんとかいけそう。イラストで動画の例が示されているので利用しない手はない。正答例には「ネット上でいつでも見られる」とあるが,だとするといささか危うい代物だという気もする。
 なお,毎年書いているのだが自由作文の採点基準が大甘である。「英語使用の正確さに不十分な点はあるが,表現内容が適切である場合は●点(中間点)とする」というもの。減点法を採るとすぐ0点になってしまうから(せっかく書いたのに?)ということであろうが,内容は大したことなくてもいいからミスのない文を求めるのが入試のありようとしては正しいはずであるし,こんな大甘な採点をしているのは5教科の中で英語のここだけなのである。実際は各高校で個々に採点基準が存在するのに違いないし,そう願いたいものである。

■理科
 一昨年が激易で昨年は「標準」,今年も「標準」であろうか。設問の適切さは置くとして,昨年の化学にあった妙な“仮説”もなく,50分をフルに使う感じになってきたのは良いことである。
[1]小問集合。昨年の問4(遺伝)のような骨の折れるものはなし。エンジンを温めて[2]へ行ける。
[2]生物。ニンニクの芽の成長と細胞分裂。「レポート」によるとニンニクの芽は先端ではなく根本がさかんに細胞分裂をして大きくなるらしい。はじめは逆ではないか?…すわ出題ミスかと疑ったが,調べてみたところ広島県の16年度入試にネギの葉の成長を扱ったものがあり,類似の結果が出ている。ネギもニンニクもヒガンバナ科ネギ亜科ネギ属で近いのだろうから,疑う必要はないのかも知れない。ただし,08年の北海道ではジャガイモの芽の成長が出ており,こちらでは芽の先端がさかんに細胞分裂をすることになっている。多くの生徒は根の成長をしっかり勉強してきているのだから,この辺りは疑わなくていいということを会話か何かで示しておいてほしいものである。問5は高校生物基礎で扱う細胞周期の問題で,国立や私立の高校では時々見かけるものだが,①が誘導になっているものの教科書の範囲を超えている。出題ミスというほどではないが高校入試として不適切であろう。
[3]化学。水溶液。問1と問2はオーソドックス。問3は,再結晶した分は陽イオンと陰イオンが結合してビーカーの底に沈殿しているように描く,あまり見かけないタイプの作図である。
 ところで,今年こそは出るであろうとダニエル電池やイオン化傾向を一生懸命に勉強した子が多かったとい思うが,またしても…であった。受験生がきっと準備してくるだろうから出してやればいいのに…と私は強く思う。勉強の甲斐があってがんばれたという手応えを味わうのも高校入試ならばいいだろうと思うのだが,いかがであろうか。
[4]地学。台風と気圧。調べてみたところ台風X,Yは2017年の第5号と第18号である。実習2と問2は3地点の観測結果から地点の特定と台風の進路を推定するもので,このタイプの出題としては高難度で類題も見かけない。解けるようには作ってあるのだがお手上げだった生徒も多かろうと思う。ところで問1(3)は「海水面の温度が低い海域に来ると台風が衰える」件をデータから記述させるもので,物理や化学の知識があれば対応はできるものの,台風のところで記述のある教科書は北海道で採択の3社中啓林館1社のみである。つまり教科書によって有利不利が生じている。したがって不適切な出題であった。
[5]物理。5年ぶりに運動とエネルギー。ここはヤマが当たった子が多かったであろう。素材は位置エネルギーの測定で,設定も設問も良いのだが,「木片とレールの間の摩擦力が一定である」ことを断る必要があったはずである。

■社会
 昨年に比べて難化した。生徒にとって初見の資料が多く,解き応えのあるセットであっただろう。
[1]小問集合。地理・歴史・公民の小問が各5題。問3(3)の「企業の社会的責任」がやや分かりづらいか。
[2]歴史。古代から現代までの総合問題で特にテーマはなし。問3は楽市楽座令が信長の勢力下にあった安土のほか岐阜にも出されたことを知っていると安心。問6はアメリカを大西洋憲章,日本を大東亜共栄圏と結びつければよいが,大西洋憲章の知識がないと書きづらく,難しかったであろう。
[3][A]世界地理,[B]日本地理。[A]問3ではイギリスのEU離脱とクロアチアのEU加盟についての知識が必要で,時事問題にアンテナを張っていないと難しい。[B]問3では石灰石をセメントに加工すれば軽量化でき,加工してから運搬したほうが経済的であることを資料から読み取る。ふだんは原材料・燃料を海外から輸入する件ばかり書くので斬新な印象。良い出題だと思う。
[4]公民。政治・経済・国際各分野から。問6は二酸化炭素の排出について意見を書くものだが,英語の自由作文でも定番のテーマなので,苦労せず書けた生徒が多かったであろう。

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